Work in the forest

|DATA

設  計:佐藤宏尚
敷  地:東京都港区芝公園3-4-30 32芝公園ビル3階
構  造:RC造
規  模:内装
用  途:オフィス
竣  工:2023.08
写  真:佐藤宏尚

|CONCEPT

岬に建つヴィンテージビル

以前のオフィスがあった三田四丁目は、徳川家康により「月の岬」と称されていた。
江戸時代までは眼下に海が広がり、縄文時代の貝塚や遺跡も残る特別な場所であった。

2023年に移転した芝公園は、ちょうど、月の岬の対に位置する岬である。
その先端には、前方後円墳の芝丸山古墳があり、海から眺める姿が壮観であったことは想像に難くない。この地も遥か太古より、生活や儀式の特別な場だった。
現在も増上寺と芝公園、そして東京タワーがそびえる東京随一のパワースポットである。

「32芝公園ビル」は、1977年5月に竹中工務店が施工。森ビル初期のナンバービルの一つで、東京タワーと芝公園を望む、風格あるヴィンテージビルである。

Work in the forest

眼前には、都心とは思えない芝公園の豊かな緑が広がる。
この緑を活かすことが、今回の計画の主題となった。

執務空間の中央に大きなカウンターテーブルを設けている。
カウンターテーブルのガラス天板には、外の緑が写り込み、室内に緑が広がる。
この緑の写り込みは、会議テーブル、そして奥のホワイトボードを兼ねたプロジェクションガラスへと連続する。

またデスクは壁面に沿ってコの字型にレイアウトし、普段は面と向かわずに集中し、振り返ればすぐにカウンターテーブルでミーティングを行うことができる。

天井内には巨大なセントラル空調のダクトがあり、あらわしにすると存在感が強すぎる。そのため、天井の一部はそのまま残した。
どこまで解体するかの匙加減は、机上では読みきれず、綿密な調査が大切である。

雑多な既存配線をどうまとめるかもスケルトン天井の悩みどころであるが、壁面上部に目立たぬようレースウェイを直付け、配線を出し入れ自由なフレキシビリティの高いシステムにしている。

プロジェクト資料やカタログなどの雑多なファイルや書籍はすべて扉で隠し、すっきりとした空間を目指した。
家具はスチールフレームにより床から浮かせている。木とスチールの面を合わせ、デスクの端部は斜めに加工し、肘のあたりを優しくするなど、ディテールにもこだわった。

環境に優しいラバーウッド

新オフィスはレザーブランド・SYRINXのオフィスを兼ねる。そのため、素材は、レザーブランドに相応しい「物語をもつもの」を厳選している。

家具に使用する木材は、ラバーウッド(ゴム集成材)。

ゴムの木は、南米や東南アジアで天然ゴムを採取するために植樹されている。しかし、25-30年で植え替えないと樹液の勢いが衰える。その木材は腐りやすく、虫がつきやすく、狂いが大きいので、以前は利用価値がなく大量に焼却されていた。
この数々の課題を解決したのは、日本の企業(ニッカジャパン株式会社)である。日本の「もったいない」という想いからラバーウッドは誕生した。
ゴムは暑い地域に生息し、成長が早い。集成材として炭素を固定化することで、CO2削減にも役立つ「環境に優しい木材」である。
また、同価格帯の集成材は針葉樹が多く、軽量で柔らかいのに比べ、広葉樹のゴムは、カウンターとして使える強度があり、加工しやすく、塗装も綺麗に仕上がる。

SYRINXはレザーブランドだが、皮は食肉加工された牛の副産物で、革として有効活用しなければ、焼却する以外にない。
ゴムの廃木も天然ゴムの副産物で、集成材として有効活用しなければ、焼却する以外にない。
革と同様の背景を持つラバーウッドほどSRYINXに相応しい木材はない。

しかし、ラバーウッドは、安価なイメージから意匠性が求められる場所に使用されることは少ない。今回は、薄く染色し、色むらと彩度を落ち着かせることで、ラバーウッドの木肌を上質に見せることに挑戦した。

エゾシカの革

会議スペースの家具の扉はエゾシカの革張りとした。この革は、故坂本龍一氏が代表をつとめていた森林保護団体more trees が認定するエゾシカの革を使用している。

「日本では、シカが急激に増加し、農産物や山林を荒らす被害も深刻になっています。more treesではシカを森の恵みと捉え、増え続けるシカを減らす取組みとして、日本におけるシカ素材の新しい活かし方を構築していきたいと考えています。」(more treesのwebサイトより引用)

その考え方に共感し、SYRINXのスピーカーLog(ソーシャルプロダクツ・アワード2018 特別賞)に採用したことが、この革との出会いである。

野生の鹿の革なので、その表情は荒々しく、角をぶつけ合った傷や猟銃で撃たれた穴もそのまま残っている。あえてその生々しい痕跡を残したまま使用した。

人がオオカミを絶滅させたためエゾシカに天敵はいない。そのためエゾシカは森の植生を破壊し尽くすまで増加している。その食害対策として年間10万頭以上のエゾシカが捕獲されているが、その皮の有効利用はほとんど進んでいない。
私たちが生態系を壊し、その結果、増え続ける命も奪いつづけている。その命を無駄にせず、最後まで大切に使う責任が私たちにはある。
生命の恵みに感謝し、サスティナブル(持続可能)な森林環境について考えるきっかけになることを願い、丁寧に仕立てた。この革は植物タンニンなめしで、経年変化で色艶が深まり、次第に美しい飴色へと変化していく。

Connected Table

壁面に設置する都合上、家具はすべて特注寸法であるが、将来、再利用できるよう1mモジュールでシステム化している。

中でも会議テーブル「Connected Table」は、販売も視野に意匠登録を行った。
コの字型のスチールフレームを井桁状に噛み合わせ、全体を構成している。
しかし、そのままでは安定しない。そこで木の角材を介し、互いのフレームを緊結することで、全くぐらつきのない安定感の高い強固な構造にすることを考案した。ビスを外すだけで、簡単にパーツに戻すこともできる。

最小限の要素で、高い機能性を実現し、まさに弊社やSYRINXらしいミニマルを追求したデザインとなっている。

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